高校受験塾 X学園
週刊朝日 1979/3/16 「祖母殺し高校生の母親が初めて語る息子の真実と事件の背景」から
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彼の、エリートと大衆と、出来る生徒と出来ない生徒と、人間をランク 別に分ける考え方ですね。これは塾が大きくかかわっていると思うんです。 彼の行っていた塾は、これは異常なくらい熱心で、その熱心さが私には不 気味に思われるくらいでした。高校受験のためのX学園なんですけど。彼 のエリートという言葉は、恐らくこのX学園からきたんだと思うんです。 上の特別のクラスというのが一つありまして、そのクラスでは、念仏の ように、君たちは、どこの学校を受けても入れる。それだけのカを持って いるんだからということを、行くたんびに言うわけです。その熱気の虜に なっちゃったみたいですね。
自分の部屋の壁の落書きにも、「X学園万歳」と書いてありますからね。
塾は一日だって休むのはいやだと言うんですよ。遺品の整理をしていたら、 塾の点数表がありまして、何点以上合格と書いてあるわけです。何点以下 は、もう一回勉強し直せとか、根本からやり直せとかって。だいたい、半 分まで取れなかったものは日本人やめろと書いてあるんです。 それ、印刷物になっているんですよ、お見せしましょうか。それに続け て泉が書いている。何でも書くんです。国語の教科書のパロディみたいの をつくつちゃったりする子だものだから、その後に、何点以下だったら、 アメリカ人やめろ、インド人やめろ、それ以下だったら人間をやめろなん て書いてあるのが一枚出てきましてね、この調子で、一年間やられたら、 相当、毒を吹き込まれているわけだなと思って。そこへ、筒井康隆の文学 とくるものですから、どうも。 「X学園万歳」、それは、しょっちゅうのことです。私がひとしきり、 X学園というのはよくないねえと言うわけですよ。困っちゃったね、だけ ど塾に行かないわけにはいかないし、あと一年だから。きっと一番上のク ラスにいる子は一番勉強が出来て、一番人間的にだめなのが揃っているん でしょう、なんて言うものだから、ものすごく怒りましてね。学校なんて だめなんだ、X学園が一番いいんだって、こうくるんです。人間的にと言 われるのが一番いやだったようですね。彼は、内心では、それが一番痛い ところだったんじゃないかと思うわけです。 中学二年までは別の塾で、日曜日だけ、ぶらりんぶらりんと、それこそ 気休め程度に行っていたんですが、中三からX学園に移りました。一日お きの月水金。それはすごかったですよ。塾なんていうのは、お金を取るた めにやっているんだから、時間が来れば終わるのかと思ったら、それが延 長してニ倍近くやることがあるんです。そして、土曜日にも出て来い、日 曜日にも出て来いとなりまして、そのお金を取るわけじゃないんです。だ から、あまり恨みがましいことを言えた義理じゃないんですが、まあ、何 て言うんですかね、その熱心なこと。出来るクラスだけなんですけれども。 日本人をやめろと書いてあるのを見て、笑っていいんだか泣いていいん だかわからなかったですね。 Q高に入って、ご両親がとても喜んでハワイヘ連れていったという方が いらっしゃるんですって。X学園の先生が、授業中に、それを笑いものに するんですね。Q高に入ってハワイ旅行なら、きみたちは全員ヨーロッパ 旅行だなって。 生徒の叱り方も、お前は出来なくてだめじゃないかと言うかわりに、東 北の百姓だとか、そういう言葉を使うというので、私は非常に頭にきて、 なんで東北の百姓と関係があるのって。私に説教されますと、泉は、それ か非常に道徳的に聞こえるものだから、反発しちゃうわけです。つまり、 お百姓さんがいなかったら、お米をどうやって食べるのと、そういうこと になるわけでしょう。 あそこがよくなかったことは明かなんですけど、じや、やめさせなかっ たのはなぜかと言われると困っちゃう。受験を目前にして塾をやめろとい う勇気が正直いって、私にはなかったんです。
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