朝倉 泉 テープ (1)/5
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えー、皆さん。このテープは私の遺書の方を読んでから聴いて下さい。 遺書を読んでからでないと、あまり面白くありませんので、面白く聞くた めに、まず遺書を読んでいただきたいと思います。 それでは、私がなぜ祖母を憎むようになったか、その原因となる昨年の 夏の事件から聞いて下さい。これはその時の会話を私が隠し取りしたもの なんです。 えー、その前にちょっと、言い忘れたことがありますので付け足させて いただきます。つまり、これはフランス語学者の祖父が私の英語のLL (ランゲージ・ラボのこと)の成績が良くないと言うので、祖母に、「泉 はLLの成績が良くないのなら、夏休みの間に英会話の学校に行かせたら」 と言ったそうです。それで祖母は私に直接言うのが嫌で、私の母に言った のです。 すると母は、私がそう言う学校へ行きたくないということを知っていま すから、私は「バッキャロー、そんなところへ行くかってんだ!」と汚い 言葉で答えたわけですね。それを母が祖父と祖母のいるところに言って、 「泉はそんなところに行くもんか」と、そのままの言葉で伝えてしまった わけですね。そうすると、祖母は大変怒って、私の所へやってきたわけで すね。それで、えー、つまり自分が腹立たしいのですが、そのことは言わ ないで、「誰がそんなところへ行くもんか」と答えたら、祖母は、「それ では祖父がかわいそうではないか」という理屈を盾に、私を批判しようと するわけですね。 「それでもお前がそう思っているのなら、おじいちゃんの前へ行って言え」 というわけです。 <ここから隠し取りの会話>
祖母
おじいちゃんになんの感謝の気持ちもないの?それでは人間ではな いね。
私
誰が、あんた?
祖母
人間らしい気持ちは少しもないのね。
私
そうかなあ。
祖母
そうだね。悪意があって勉強しろと言うのなら、汚い言葉を使って もいいのよ。
私
わかった。わかった。
祖母
あんたが本当におじいちゃんを憎くて敵のように思っているのなら、 おじいちゃんに直接言いなさい。泉ちゃんは将来、世の中へ出たら、 おじいちゃんの力が必要になることがあるんだから・・・・。
私
世の中へ出て?世の中へ出るのは、ずっと後だよ。
祖母
ずっと後でも大丈夫です。
私
僕は生命のことを言っているんではないよ。
祖母
生命のことではないよ。なに言っているんですか!いい加減になさ い。おじいちゃんの威光というのはどこかにあるんですからね。
私
威光?威光って遺書のこと?
祖母
いい加減にしなさい。おじいちゃんが本当に怒ったら、なにもして くれませんよ。今は困らなくても、事実困ることがあるんですよ。
さて、ここまで聞いてきますと、僕が遺書に書いたことは被害妄想では ないことが、決してないということが分かっていただけると思います。
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