第三章 (3)/8
1 2 3 4 5 6 7 8
◆.◆.◆.◆.◆.◆.◆.◆.◆.◆.◆.◆.◆.◆.◆.◆.◆.◆.◆.◆.◆. |
(3) 夜のふとんかけ
夜、私の寝室にしのび込み眠っている私にわざと、起こすような大声で
こう言いながらふとんをなおす。
「こら。泉ったら駄目だねえ。ふとんをぬいで」または次の日にこう言う。
「きのうまたふとんをはいでたよ。早く大人になってそれぐらい一人でで
きるようにならなきゃ駄目じゃないか」つまり私にこういった言葉を言っ
てみせることによって「おまえはまだ子供なんだよ。ふとん一つかけられ
ない。だからアタシが世話をしてやらなきゃダメなのさ」と私にほのめか
してみせ、また自分でも私がまだ子供で、自分の影響下から離れられない
のだと、自分自身に思い込ませて安心しようとしているのだ。このいやら
しい方法は祖母も半ば無意識に行っているのだろう。表面上は「泉のため
を思ってやっているんだよ、あたしゃ」などと言っているが、こっちには
すべておみとおしだ、この馬鹿。「泉のため」じゃなく「泉がまだ自分な
しではやっていけないのだと自分に思い込ませ、またそれを泉に見せつけ
て満足するため」じゃないか。それをなんだ。「大人にならなきゃだめ」
だと。逆じゃないか。おまえは私が「大人でない」ことを自分に納得させ、
私にも見せつけようとして、私が「大人でない」ことを表す証拠を必死で
見つけ出そう、みつからなければ作りだそうとまでしているじゃないか。
祖母が私に何かの命令をしたとする。その私に対する命令はその命令の内
容などはどうでもよく、問題は私がその命令に従うかどうかなのだ。命令
によって私がまだ祖母の影響範囲内にいて、自分(祖母)が私より優位に
立っていると納得し、それを私に誇示したいのだ。言ってみれば命令のた
めの命令だ。なにが「泉のためを思って」だ。ふざけるな。
こういういやらしい小細工は二つや三つではない。
index back next