「遺書」 朝倉 泉 第三章 (3)/8
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        (3) 夜のふとんかけ  夜、私の寝室にしのび込み眠っている私にわざと、起こすような大声で こう言いながらふとんをなおす。 「こら。泉ったら駄目だねえ。ふとんをぬいで」または次の日にこう言う。 「きのうまたふとんをはいでたよ。早く大人になってそれぐらい一人でで きるようにならなきゃ駄目じゃないか」つまり私にこういった言葉を言っ てみせることによって「おまえはまだ子供なんだよ。ふとん一つかけられ ない。だからアタシが世話をしてやらなきゃダメなのさ」と私にほのめか してみせ、また自分でも私がまだ子供で、自分の影響下から離れられない のだと、自分自身に思い込ませて安心しようとしているのだ。このいやら しい方法は祖母も半ば無意識に行っているのだろう。表面上は「泉のため を思ってやっているんだよ、あたしゃ」などと言っているが、こっちには すべておみとおしだ、この馬鹿。「泉のため」じゃなく「泉がまだ自分な しではやっていけないのだと自分に思い込ませ、またそれを泉に見せつけ て満足するため」じゃないか。それをなんだ。「大人にならなきゃだめ」 だと。逆じゃないか。おまえは私が「大人でない」ことを自分に納得させ、 私にも見せつけようとして、私が「大人でない」ことを表す証拠を必死で 見つけ出そう、みつからなければ作りだそうとまでしているじゃないか。 祖母が私に何かの命令をしたとする。その私に対する命令はその命令の内 容などはどうでもよく、問題は私がその命令に従うかどうかなのだ。命令 によって私がまだ祖母の影響範囲内にいて、自分(祖母)が私より優位に 立っていると納得し、それを私に誇示したいのだ。言ってみれば命令のた めの命令だ。なにが「泉のためを思って」だ。ふざけるな。  こういういやらしい小細工は二つや三つではない。 index  back  next