第三章 (8)/8
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(11) その他
祖母は私を束縛しようとして出した命令、あるいは提案が私に拒否され
ると次のような反応を示す。最初の命令とは全く関係がなく、そして反対
の余地がないような簡単な命令をするのである。つまり私が祖母の命令に
逆らったのがおもしろくないので、断りようのない命令い私を従わせてそ
の不快感をうめあわせようとするのだ。このくそばばあめ。今に地獄へ叩
き込んでやるからそう思え!きさまあと数日の命だ。
私は部屋の位置関係上、母より祖母に多く口をきく。すると私としゃべ
ったあとで祖母は私に隠れてこっそりと一階をまわって母のところへ行き、
泉ちゃんがこうこうしゃべったと母に言う。これは母と祖母の仲が良いか
らではなく、祖母が私をめぐって対立する一人の女として敵視している私
の母に対して、こういうことをしゃべることによって「どうだい、知らな
いだろ。泉はアンタにしゃべらないことも私にはしゃべるんだよ。どうだ
い、くやしいダロ」と母に自分の優位を誇示しようとしているのである。
とにかくいろいろと書いてきたが、ここまで祖母の言葉の一語一句まで
あげつらい、みにくさをひき出して言葉にするというのは、並たいていの
仕事ではなかった。非常に頭を使うつらい仕事だった。だが私は憎悪のカ
でそれを耐えぬいた。祖母が私を支配しよう、優位にたとうとするのは憎
悪ではなく異常に強く、そしてゆがんだ愛情からである。だからこそベタ
ベタとしてかえっていやらしいのである。孫に対する愛情などというもの
から、はるかにかけ離れた愛情だ。男に対する女の愛情、色情狂の女の愛
情である。もはや異常だ。私がもし生きていて祖母も生きていたとしたら
一体、どうなるであろうか。祖母は私の一生を束縛しようとするにちがい
ない。すでに早大の、どの学部に私が進学するかも祖母によってきめられ
かけている。そしてこういう女はみにくい執念で長生きしやがるにちがい
ないから私が就職する会社も祖母によって決められる。幼ないころから祖
母に従わせられている私は祖母に反対できないのである。祖母のあまりの
みにくさに圧倒され絶望してしまうのである。だがここまではともかくと
しても私が結婚する時まであの祖母がハイエナのようにしつこく生き残っ
ていたとしたらどうであろう。私に対して異常な(もはや変態といってよ
いだろう)変態的愛情を持っている祖母は私の妻をことあるごとに迫害し
いじめぬくにちがいない。私にはそれがたまらない。未来の妻が可哀想で
今から涙がでるほどである。ここまでくると私もいささか異常の誹りをま
ぬがれないが、異常な祖母に対するには私も異常にならざるを得なかった。
グランドマザー・コンプレックスとでも言おうか。とにかく祖母がいかに
みにくいかということは、この文を読んだ人にはかなり伝わるはずである。
だがそれでさえも祖母と日々むかい合っている私がみせつけられるみにく
さの半分程度でしかない。
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