第三章 (5)/8
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(5) 私が怒った時
(1) わざとうす笑いを浮べてみせる。これは私が感情を爆発させ真剣
になっている時に、自分は余裕のある態度を示すことによって、自分の心
の中の脅えを隠すだけでなく、逆に自分が私を相手にしていないというよ
うなムードをただよわそうとしてこういう態度をとるのである。私が何を
言っても耳をかさず、おまえみたいな子供は相手にできないというような
態度をとる。これによって私の論理的追求を逃れるだけでなく私を見下す
ようなムードも作れるのである。
(2) (1)のあとも私がしつこく論理的追求を続けると、突然、態度
をひるかえして怒りだす。この変化がいやらしい。怒るのがいやらしいの
ではなく、それまで怒りを隠して余裕のある態度をとっていたということ
が明らかになるのがみにくいのである。祖母が怒るとどうなるか。
(1)「おばあちゃまはあなたのためを思って−」などと言う。これは祖
母が常にたてにとる武器である。祖母の本心がこれとはるかに違うという
ことはすでに述べたので、ここでは繰り返さない。
(2)「じゃあおじいちゃまのところへ行こう。」最後には必ずこれがと
びでる。祖父は一家の長老格で、私が恐れているということを知った上で、
これを言うのである。全然「じゃあ」などではない。突然、全く関係のな
い祖父を持ち出すのだ。私が、これは祖父とは全く関係がないのだと説明
しても駄目であり、最後には高一にもなった私を、明治生まれらしい豆タ
ンクのような体に全力をこめて私を祖父のところへ連れて行こうとする。
いや連れて行こうとする真似である。私が降参するのを、いまかいまかと
待っているのだ。その証拠にいつか私が本当に怒り狂い、じやあ祖父のと
ころへ行ってやるといって祖父の部屋へ行こうとしたら、祖母は私の腕を
がっちりと押え「いい加減になさい。」などと全く意味の通じないことを
さけび結局は私をひきとめてしまった。さて私としては祖父のところには
行きたくない。祖母のあまりにもこみ入ったいやらしさを論理的に説明で
きる自信がなかったし祖母はいざとなれば平気でウソをつく。このみにく
さに圧倒され絶望して私はその祖母のウソを自分で認めてしまう。また、
もし祖母のみにくさを論理的に説明したとすると祖母がどんなことをしで
かすかわからない。こういったわけで私は祖父のところへ行きたくない。
それを祖母は知りぬいているからこそ私にこれを言うのである。そして私
が祖母のこの要求を拒否すると、なぜか私が間違っているかのようなムー
ドになってしまう。祖母はこう言う。「じやあ、あやまりなさい。」私が
何も悪いことをしていないのにである。これは私にあやまらせることによ
って、私の激怒にくずされそうになった祖母の優位を私自身に認めさせて
再び私の優位に立とうという計略なのである。私はさからえない。この力
強く恥しらずないやらしさにとても太刀打ちできない。私はあやまってし
まう。すると祖母は満足して「じゃあ許してあげる」と言うのである、優
越者の笑みをたたえて。
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