「遺書」 朝倉 泉 第三章 (1)/8
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        第三章 祖  母  祖母のみにくさは筆舌につくしがたい。そのみにくさは私への異常に強 い愛情から来ている。つまり私をあまりに愛しているがゆえに私が精神的 に独立し、これまでの幼児期のように自分の言うままにならず自分の影響 範囲から離れていってしまうのがいやなのである。ここまではただいやら しいだけだが、祖母が私の精神的独立を妨害し、自分の支配下におこうと するためのさまざまな工作は、もういやらしいなどという段階を越えてい る。私を自分のところにつなぎとめておこうとして祖母が使う小道具のほ んの一部をあげてみよう。 (1) 薬  祖母は私に薬の入った瓶を与え、毎日、私に「薬は飲んだかい」と聞き にくる。そして、もし私が飲んで、ないなどと言うと異常なまでに怒る。 最近では瓶の中の錠剤の数を数えて、私が薬を飲んでいるかどうかを確か めはじめた。なぜ祖母がこれほどまでに薬に固執するのかというと、祖母 にとってこの「薬」とは祖母と私の間の主従関係を象徴するものだからだ。 つまり、薬は、私が祖母の命令に服従しているということを祖母が確認し、 満足するための手段なのだ。だから私が薬を飲まないということは祖母の 命令に私が従わない、ということにつながり祖母の最も恐れ、憎んでいる、 祖母からの私の精神的独立につながる。そこで祖母は怒り狂うのだ。  このように祖母は多数の小道具を弄して私と祖母との接点を増やし、そ れによって私が祖母に従属しているのを確認し、またそれを私に力ずくで 認めさせようとしているのだ。 index  back  next