第三章 (4)/8
1 2 3 4 5 6 7 8
◆.◆.◆.◆.◆.◆.◆.◆.◆.◆.◆.◆.◆.◆.◆.◆.◆.◆.◆.◆.◆. |
(4) 部星のあらさがし
私が学校に行っている間に私の部屋の中をいろいろと探しまわり、人に
見られてはまずいようなノートを見つけ出しその内容をじっくりと読む。
ドアをとざした私独自の空間である私の部屋は祖母にとっては、ともすれ
ば自分から離れ自分に対して殻をとざしてしまいそうな私の自我の象徴な
のだ。その部屋に無断で入りこみ、中のものをいろいろ見るという行動は
祖母にとっては自分に対して穀をとざしている私の自我の中への侵入を意
味する。つまり私の部屋のドアは祖母から見れは祖母を拒否する私の象徴
で、それを開けて中に入れば、祖母は自分から逃げそうな私の内部へ踏み
込むことになる。祖母は、私をつかまえたと思って満足し安心するのだ。
なんといやらしい心理だろう。しかし本格的にいやらしくなるのはこれか
らだ。(1)(2)(3)の例でもそうだったように祖母は自分の優位を確認して
自己満足するだけでなく、私にも「おまえはただの子供さ。おまえは私の
支配下にあるのさ」ということを無理矢理に見せつけ認めさせようとする。
つまり次のような恐ろしい行動に出るのである。帰宅した私に祖母はこう
言う。「ネエ、泉ちゃん。ママに見つかったらあんたが困るものがないか
と思って部屋をさがしてあげたら、ホラ、こんなノートがあったヨ。気を
つけなきゃ駄目じゃないの。」さてこの言葉を分析してメツタ斬りにして
やる。まず祖母は、私に自分(祖母)が私の部屋に入ったこと、そしてあ
らさがしをしたこと、秘密のノートをみつけてそれを読んだことを今の言
葉によって伝えたわけだ。これによって祖母は自分が私の自我の象徴であ
る私の部屋に入ったことを誇らしげに宣言し、また「ノートの秘密は二人
だけのことだヨ」というニュアンスも含める。これは(2)の「夜食」の時
と同じだ。「ママに見つかると困るものがないかと思って」は云いわけと
同時に、私の母親が、私と祖母「二人の」敵であるというようなニュアン
スをただよわす効果もある。実際、私の祖母が私の母に対していだく感情
はとても実の娘に対していだくものとは思えない。祖母は私の母を、私を
めぐって対立する女として見ているのだ。実の娘に嫉妬するのである。正
に姑が嫁をにらみつけているのと同じなのである。さてこの「ママに見つ
かると−」の第一の役割である「云いわけ」これに最もいやらしい思いが
こめられているのである。祖母はこの言葉で本当に私が納得するなどとは
全く思っていない。いや納得されては、祖母が困るのである。自分の優位
を私に誇示できなくなつてしまう。つまりこの言葉は表面上、みせかけの
平和を保つための言葉にすぎないのだ。この言葉によって表面上は私と祖
母はにこやかな顔をしていられるのである。だが私は決してこの言葉を信
じないし、祖母もそのことを知っている。表面はつりあいがとれているも
のの心の中では私は「ちくしよう。よくもオレの領域に踏み込みやがった
な」と思っており祖母は「どうだい、自分がいない時に部屋に踏み込まれ
て、しかも秘密を探りあてられてくやしいだろ、恥かしいだろ。アタシハ
アンタニ優越シテルソダヨ」と勝ち誇っているのだ。なんといやらしい、
手のこんだ計略だろう。自分が優位にたちたいため、というより私を劣位
におとしいれるために、こうまで私を恥かしめておきながら私との決定的
衝突を病的に恐れ、表面上の平和を保とうとするそのいやらしさ・きたな
らしさはもはや形容する言葉を持たない。表面上の理屈はちゃんと通って
いるのだから、もし私が怒ってもその理屈を押し通し、うやむやにしてし
まえるのだ。だから私が怒ればかえって祖母の思うツボである。自分(祖
母)が私にそれだけ強い影響を与えたと思って満足するからである。だが
ここまでぐじゃぐじゃ考えた祖母も結局は私に負けたのだ。そのみにくい
計略を完璧に暴露され追い詰められたのだから。ざまあみろ。今の、部屋
のあらさがしの縮小版というのもある。祖母は毎晩、何度も私の部屋へや
って来るのだが、その時に私がトイレに行っていたりして部屋にいないと、
祖母は私の部屋と隣の祖母の部屋の境にあるドアをわざと開け放したまま
帰って行くのだ。これは「オマエのいない無防備な部屋に入ったんダヨ」
と言いたい、私の自我の象徴である部屋への無断侵入を誇りたいため、ま
た祖母の部屋と私の部屋を空間的につなげ、「アタシとアンタはいっしょ
なんだよ」と私につきつけてみせるためである。ここまで書くと被害妄想
だと言われるかもしれないが、それならなぜ祖母はドアを開け放すのだ。
私が部屋にいる時はいつもちゃんと閉めていくのに。こういったまわりく
どくていやらしい行動に対しては抗議のしようがない。そこで私が普段か
ら押えつけていた怒りをたまに爆発させると、祖母はまたもやみにくい反
応を示す。
index back next