第三章 (7)/8
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(9) 私の暴力的発作に対する反応
暴力的発作とは私が本を破ることである。なぜこんなことをするかとい
うとさっき書いたような祖母の、本に対する憎悪のあまりの激しさ、みに
くさに絶望し、やけになって本を破るのである。自分の大切な本を破るの
は実につらく、悲しいことだ。だが、それを私にさせるはど祖母のいやら
しさはすさまじかった。最初のうちは隠れて本を破いていたのだが、その
うち祖母の目の前で破くようになった。この時の祖母の反応が実にいやら
しい。まったく私のこの行動を相手にしないで無視するのである。この心
理を分析してみよう。まず、この事態にまともにとりあえば、騒ぎはます
ます大きくなるに違いないと思って祖母は私の発作を無視するのだという
ことが言えるが、それだけではない。本を破ってみせるというのは祖母の
みにくさにギリギリまで追いつめられた私の屈折した形での抗議である。
だが祖母がそれを無視することによって抗議は抗議でなくなり、それどこ
ろか逆に祖母が憎む本を私自身で破ったというだけのことになってしまう
のだ。緒局、私が馬鹿な目にあうだけなのだ。それを知っているからこそ
祖母は無視するのだ。なんという狡猾でいやらしい計略だろう。
(10) 昼食代
私は昼食を学院の食堂でとる。私は一日五百円の割合で祖母から昼食代
をうけとっている。これもはじめは母からもらっていたのだが祖母がその
役目を横取りしてしまったのである。祖母は私に金を払うという行為によ
って自分の優位を確認しようとしたのだ。昼食代は十日に五千円ずつもら
うのだが祖母は支払いの日が来ても金を渡してくれない。一日は遅らせる。
わざとである。夜食の場合と同じで私に「おあずけ」状態を味わわせ、自
分の優位を誇示して満足したいのである。または私に頼ませる、頭を下げ
させるためにわざと遅らせるのである。そして少しでも私が祖母に反抗的
な言動をとろうものなら、すかさず「じゃあこれからお昼ごはん代あげな、
よ。」と、こうである。それどころか、いいか、よく聞いてほしい、いや
読んでほしいのだが、祖母は私にこんなことまで言うのである。「あんた
のお母さんはね、今、離婚したあとでお金がないんだからね。そしてあん
たが今言ったようなこと、おじいちゃまに言ったらおじいちゃま怒ってお
金だしてくれなくなるよ。あんたの家は今貧乏なんだからそうなったら困
るよ」
どうであろう。「あんたのお母さん」とは祖母の実の娘である。なんと
いう悪意であろうか。そしてこの「あんたのお母さん」という呼び方の中
にも祖母の自分の娘に対する静かな敵意が表れてしるではないか。「あん
たのおじいちゃま(つまり祖母の夫)お金出してくれなくなるよ」と、い
う言葉は自分が私に金を出さないと言うのはあまりにきつすぎると思った
祖母が祖父に責任を転嫁しようとした言葉である。「あんたの家は、今、
貧乏なんだからね」この言葉は冗談でもなんでもなく、真剣にしかもコソ
コソとした調子で語られる。貧乏は私の母が勝気な女独特のいやらしい自
尊心で、金持の祖父(つまり母の父親)の援助を受けないのが悪いのだが、
とこかく母が実の娘の家庭に対して言う言葉とは思えない。私を束縛する
最後の手段としてついに財産を持ち出してきたのだ。
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